飲食業が廃業しやすい理由を考察してみた
飲食業界は、景気や流行の影響を強く受ける業種のひとつです。街を歩けば新しいお店が次々とオープンする一方で、数か月も経たないうちに閉店してしまう店舗も少なくありません。なぜ飲食業はこれほどまでに廃業率が高いのでしょうか。その背景には、構造的な要因と経営的な課題、そして人の問題が複雑に絡み合っています。
1. 初期投資が大きく、資金繰りが厳しい
飲食店の開業には、厨房機器、内装工事、テナント保証金、什器備品、広告費など多額の初期投資が必要です。小規模な店舗でも数百万円、立地や規模によっては数千万円にのぼることもあります。
しかし、開業直後は固定客がつかず、売上が安定するまでに時間がかかります。その間に家賃や人件費、食材費などの固定費が重くのしかかり、資金繰りが苦しくなるケースが多いのです。結果として、資金が底をつく前に撤退せざるを得ない経営者も少なくありません。
2. 利益率が低く、価格競争に巻き込まれやすい
飲食業は原価率が高く、利益を出すのが難しい業種です。原材料費の高騰や人件費の上昇が続く一方で、消費者は「安くておいしい店」を求める傾向が強く、価格転嫁がしづらい構造になっています。
その結果、安売り競争に巻き込まれ、利益率が圧迫されることが多いのです。たとえ一時的に売上が伸びても、利益が残らなければ長続きはしません。
3. 人材の確保・定着が難しい
飲食業界では慢性的な人手不足が続いており、特に中小規模の店舗では「人がいない」ことが経営の大きなリスクになっています。
長時間労働や休日の少なさ、給与水準の低さなどが敬遠され、従業員が定着しづらい環境です。スタッフの入れ替わりが激しいと、サービス品質の低下や教育コストの増加につながり、結果的に経営の安定を損ねます。
4. 立地依存と競合の多さ
飲食店は立地の影響を強く受けます。駅近や繁華街に出店すれば集客はしやすいものの、家賃が高く利益を圧迫します。一方で、家賃の安い郊外や路地裏では、そもそもの集客が難しい。
さらに、飲食業界は参入障壁が低く、競合店が次々に出店します。流行やSNSでの話題性によってお客様の関心が短期間で移り変わるため、安定的なリピーターの確保が欠かせませんが、それが非常に難しいのです。
5. 経営ノウハウ・数字管理の不足
料理の腕はあっても、「経営の知識」が不足しているケースが多いのも飲食業の特徴です。売上・原価・人件費・回転率などの数字を正確に把握せず、「なんとなく経営」を続けてしまうと、気づいたときには赤字が膨らんでいるという事態も珍しくありません。
また、メニュー設計や販促、仕入れの効率化など、経営的な視点を持たないまま運営すると、利益の出る構造を作ることができません。
6. 景気・社会情勢・トレンドの影響を受けやすい
コロナ禍や原材料高騰など、外部要因による打撃も大きいのが飲食業です。景気の悪化や物価上昇が起こると、真っ先に消費者が削るのは「外食費」。
さらに、SNSの流行やメディアの露出で一気に人気が出た店が、数ヶ月でブームが去ることもあります。飲食業は「流行り廃り」が早い産業であり、時代の変化に柔軟に対応できない店舗は生き残りが難しいのです。
7. 経営者の精神的・肉体的負担
最後に、飲食店経営は体力と精神力が求められる仕事です。長時間労働、休日の少なさ、クレーム対応、スタッフ管理、仕入れや会計など、経営者が担う役割は非常に多岐にわたります。
この過酷な労働環境により、心身の疲弊や家族との時間の欠如などから、「もう続けられない」と自主的に廃業を選ぶケースも少なくありません。
まとめ
飲食業が廃業しやすいのは、「努力が報われにくい構造」に原因があります。
資金・人材・立地・流行・経営力――これらのどれか一つでも欠けると、継続が難しい業界です。
しかし一方で、データ分析やSNS発信、居抜き物件の活用など、工夫次第でリスクを減らし、持続的な経営を実現する道もあります。
「おいしい料理を提供する」だけでなく、「経営をデザインする力」が今後の飲食業には求められているのです。